大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(う)1830号 判決

被告人 鄭斗万

〔抄 録〕

控訴趣意第二点について。

凡そ官公署の庁舎の出入口、所管各課の事務室窓口に到る廊下等が、その執務中一般に開放されているのは、その執務に関して、正常な用務を帯びて平穏に公衆の出入することが予期せられる関係上、これが便宜に応ぜんとするものに過ぎないのである。しかしてその出入口及び廊下は、その庁舎を管理する者の看守内にあることは勿論であるから、たとえ陳情のためであつても一時に多勢が押しよせ混雑が予想される場合には、秩序維持のため看守者は臨時に受附所を設けその係員をして適宜その庁舍内への出入を制限せしめ特にその代表者のみを庁舍内に入れて他の者の立入を禁止せしめるが如き措置を講ずることは法律上当然許容せられるところであるから、もしこれら看守者の措置を排し、その意思に反して強いて立入るときは、故なく人の看守する建造物に侵入したものとして、建造物侵入罪を構成するものであることは多言を要しない。これを本件について見るのに、原判決挙示の関係証拠によれば、上田市役所においては、同市居住の朝鮮人多数が昭和二十七年六月二十五日、朝鮮動乱二周年記念集会を催した後、市長に陳情すると称し大挙して市役所に押し寄せ市長に面会を強要する形勢あることを察知し、これがため一般執務及び所用ある一般市民にも支障を来すべきことを虞れ、当時同市役所庁舎管理権者たる市長不在のため市長代理たる助役畑好郎においてこれが対策として同市役所庁舎表玄関入口に、二箇の机を並べて受付所を設け代表者のみを必要な課に案内させるべく職員柴崎章雄を責任者と定めて応接の準備を整えていたこと、しかるに同日同市南天神町公会堂において開催された前記記念集会終了後、同集会に参加した者を中心とする被告人等朝鮮人男女約四十名が陳情のため市長に面会を求めると称して原判示の如きプラカードを掲げ、歌をうたい気勢をあげながら一団となつて行進し来り同市役所正門から庁舎表玄関入口に押し寄せ、右受付所において市長との面会方を要求し右責任者柴崎章雄が市長不在の旨を告げて応接しようとするや、右集団者等は、先頭に立つていた被告人の「はいつてしまえ」という叫声に呼応して互に意思を相通じ右応接の余裕をも与えず大挙して右入口受付所の机を押しのけ右柴崎外係職員の制止するのを肯ぜず喊声を挙げて同所から所管各課事務室窓口に通ずる廊下乃至事務室内に立ち入つたことその他原判示第二の事実を認めるに十分であるから被告人等の各所為は前段説明の趣旨に照らし建造物侵入罪(共同正犯)を構成することは勿論であつて到底これをもつて所論の如く違法性のない行為であると解することはできない。原判決が被告人を刑法第百三十条(第六十条)の罪に問擬したのは正当であつて毫も法令の適用を誤つた違法の廉はなく、論旨は理由がない。

(三宅 河原 遠藤)

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